大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和51年(ネ)158号 判決 1977年10月26日

被控訴人 株式会社大光相互銀行

理由

当裁判所も、被控訴人の本訴請求中控訴人日之出産業株式会社に対する本件不動産の引渡請求を除く部分は、すべて正当であるから認容し、右引渡請求については、被控訴人が原判決添付別紙登記目録記載の本登記を経由したことを条件とする限度において認容し、その余は棄却すべきものと考える。その理由は、原判決一四枚目表二行目から同裏一行目までを次のとおり改めるほか原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。

「控訴人らは、本件仮登記担保権の被担保債権は別紙(一)根抵当権目録記載の根抵当権の実行により全額弁済を受けたことによつて消滅したと主張する。

《証拠》によれば、本件仮登記担保権は、被控訴人と三協物産間の昭和四〇年七月三〇日の相互銀行取引契約に基づき三協物産が被控訴人に負担する現在及び将来の一切の債務につき元本一〇億円及びこれに付帯する利息、損害金の限度で担保するいわゆる根仮登記担保権であることが認められるところ、右相互銀行取引契約に基づき三協物産が被控訴人に負担する債務については、共同担保として、本件仮登記担保権のほかに別紙(一)根抵当権目録記載各不動産(ただし、同目録第一(1)を除く)に根抵当権が設定されていたことは当事者間に争いがなく、《証拠》によれば、被控訴人は、三協物産に対し、本件仮登記担保権の被担保債権として、別紙(二)債権目録第一ないし第五記載の各債権を有したことが認められる。

そして、《証拠》を合わせれば、被控訴人は、別紙(一)根抵当権目録記載の各根抵当権を実行して別紙(三)記載のとおり配当金の交付を受けまた同別紙記載の代位弁済を受けたこと、被控訴人は、右配当金及び代位弁済金の各債権に対する充当については同別紙記載のとおり帳簿上の処理をしていることが認められ、なお、右各証拠によれば、仮受金の処理及び別紙(三)中一の(二)記載の充当関係を除き、右被控訴人処理のとおり弁済されたと認められるが、右別紙(三)の一の(二)記載部分については、三億七二四五万〇九三九円が別紙(二)第一の本件債権元本の弁済に一億九一九九万一一九七円が右元本に対する昭和四九年九月三〇日から同五〇年一〇月三日までの損害金に充当され(《証拠》)、本件仮登記担保権実行の対象となつた別表(二)第一の債権は、控訴人ら主張の根抵当権の実行等によつても、なお元本六億六八一五万一八〇〇円及びこれに対する昭和五〇年一〇月四日以降年一八・二五パーセントの損害金が残るものと認められる。のみならず《証拠》によれば、被控訴人は、協栄生命に対し別紙(二)債権目録第一記載の代位弁済金を支払うに先立ち、不動産鑑定業者株式会社マネージメント・リサーチ・センターに対し、本件不動産及び沼津市西野字霞所在の畑九筆(《証拠》によれば、右畑九筆には、本件不動産と共同担保の関係にある仮登記担保権が設定されていたことが認められる。)について、時価相当額の鑑定を依頼し、右依頼に基づき不動産鑑定士浦野は、昭和四九年八月二八日、本件不動産及び右畑九筆の同月一六日当時の価格を総計五億六八二二万八六四〇円(本件不動産の評価額五億四八〇九万六六四〇円)と評価したこと、そこで、被控訴代理人弁護士小川利明は、三協物産に対し、昭和四九年九月二〇日、「被控訴人は、別紙(二)債権目録第一記載の協栄生命に対する代位弁済を近日中になすので、被控訴人において、右代位弁済に基づく求償債権の弁済に代え、本件不動産及び前記畑九筆の所有権を確定的に取得すること、ついては三協物産は被控訴人に対し右不動産について仮登記に基づく本登記手続をなすべきこと、右不動産の時価は五億六八二二万八六四〇円であるから、右本登記の日における求償債権との差額は現金をもつて支払うよう求める。」旨記載した内容証明郵便を発し、同郵便は翌二一日三協物産に配達されたこと、が認められ、被控訴人が同月三〇日協栄生命に対し合計一〇億四〇六〇万二七三九円を代位弁済したことはすでに認定したところであるから、右によれば、被控訴人が右の代位弁済をすると同時に、内容証明郵便による被控訴人の右意思表示は、本件仮登記担保権の実行(換価処分)としての効力を生じたもので、右により被控訴人は、少なくとも本件不動産の所有権を確定的に取得することにより、右求償債権一〇億四〇六〇万二七三九円につき本件不動産の適正評価額五億四八〇九万六六四〇円(《証拠》、原審における鑑定人小林秀嘉の鑑定の結果によりこれを認める)の弁済を得たものというべきであり、その後になされた別紙(一)根抵当権目録記載の根抵当権の実行により、右の効果が左右されるものではないから、いずれにしても控訴人らの前記主張は採用の限りでない。

次に、控訴人らは、本件不動産の時価は本件仮登記担保権の被担保権の残存額を上回るから、被控訴人はその差額を清算金として支払うべきであり、控訴人らは被控訴人日之出産業株式会社に対し右清算金を支払うまで本件本登記手続承諾義務の履行を拒む旨主張する。

しかし、前記認定したところによれば、本件不動産の前記換価処分時の価格は、別紙(二)債権目録第一記載の債権額に足らず控訴人ら主張の清算金を生ずる余地は全くなかつたことが明らかである(なお、右換価処分後になされた前記根抵当権の実行が右の法律効果につき何ら影響を与えるものでないことは前述したところである。)から、控訴人らの右主張もその余の点を判断するまでもなく失当である。」

よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから棄却する。

(裁判長裁判官 安岡満彦 裁判官 内藤正久 堂薗守正)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例